ケータイの形態学展 -The morphology of mobile phones- に行ってきた

2017/07/21-31 に東京・丸の内の GOOD DESIGN Marunouchi で行われていた「ケータイの形態学展 -The morphology of mobile phones-」に行ってきました。

この展示会は au Design project の 15 周年を記念して行われたもので、輝いていた頃の KDDI を感じる懐古厨向けのイベントです。

すべての展示の写真とメモを取ってきた(撮影自由でした)のですが、全部で 72 点もあり膨大なので、僕の心が動いたところを掻い摘んでご紹介します。

第一章「手が好きな形態〜デザインケータイの誕生と終焉〜」

一般的に知られている au design project は 2003 年の INFOBAR が最初ですが、展示ではそのコンセプトとなった原型から展示されていました。当時ビジネスショウなどで展示され話題になっていましたが、直に目にするのは初めてでした。

原点のプロトタイプ

レゴでモックを作ってみたり、謎の洗濯バサミがあったり、アルミやアクリルなどの素材もあれこれ思案していた様子が伺えます。

info.bar concept

INFOBAR のプロトタイプ。当初は表面が携帯電話で、裏面が PDAリバーシブル仕様を考えていたようです。PDA の画面はそのまま AR 用のディスプレイとしても使おうとしていたようで、随分遠い未来を見据えたプロダクトであったことが伝わってきます。

rotay concept / wearable concept

ウェアラブルの研究も行われていたようです。『とある科学の超電磁砲』で描かれている未来感はこのへんがベースになっているような気がしますよね(オタクはすぐアニメの話をする)。

GRAPPA concept / GRAPPA 002 concept

ケータイ=女子高生という図式が定着したことへの反発として、金属筐体にサファイアガラス、ラバー製のヒンジなど、大人の上質さを追求しようと作られたコンセプトのようですが、当時はゼロ円ケータイが猛威を振るっていた時代でもあったため高級路線を立ち上げることはできなかったそうです。今も昔もケータイ屋さんは「ゼロ円」に苦しめられているんですね。

apollo concept / appolo 02 concept

スマートフォンという言葉がまだなかった時代にも、スマートフォンっぽいものは当然考えられていたようです。なんとなく、左からは Windows っぽさを、右からは Mac っぽさを感じます。

talby concept / talby

tably のコンセプトモデルと、

tably の製品版。

ほとんど忠実に製品化されているように見えますが、コンセプトモデルでは切削加工による角にアールの付いたアルミ製のユニボディを採用しているのに対して、製品版では樹脂が使われています。2004 年当時ではまだ量産品にアルミの切削加工を施すのはコストや時間の問題で難しかったようで、この技術が量産品に広く使われるようになったは 2008 年の MacBook Air が最初だそうです。進化のスピードが遅くなっているみたいなことを言われますが、全然まったくそんなことはないんですよね。

TOMEI concept

X-RAY の原型になったコンセプトモデル。驚いたのは燃料電池を搭載しようとしていたところです。透明のタンクにメタノールを入れておき、それがゆらゆら揺れる姿までデザインに取り込もうとしていたようです。意欲的すぎる…。バッテリーの問題は現在でも明確な答えにたどり着いていないわけですし、目のつけどころは良かったですよね。次の革命待ちという感じでしょうか。

G11

そしてガラケー時代最後のデザインケータイ G11 は、すでに iPhone 4 が発売され、人々が SNS でコミュニケーションを取るようになった世界に生まれました。奇しくも一般に SNS が普及するきっかけとなった東日本大震災の翌々週に最後のデザインケータイが発売されたというのは運命を感じます。

第二章「魂を揺さぶる形態〜ケータイはアートになりえたか?〜」

製品化されたのは草間彌生の携帯電話だけというアートの難しさを感じるコーナーでした。

Art Editions YAYOI KUSAMA

昨今の草間彌生フィーバーを見ると 10 年早かったような気もしますが、スマートフォン時代になってからこれが実現できたかと言われると難しいでしょうね。

BOTANICA Art Editions Concept

一瞬どこが携帯電話なのかわからず、数分凝視してようやく理解しました。名前から察するにボタニカル・ガーデンズをイメージしているのでしょうが、僕は「ヴァニラウェアっぽい!」と思いました。

PixCell via PRISMOID Art Editions Concept

若干トライポフォビアを発症しそうになりました。

第三章「夢見る形態〜iPhoneインパクトと新たな方向性の模索〜」

actrace concept

iPhone の「目的」に特化した UI に対するアンチテーゼとして、「行為」に特化した UI を模索していたようです。タッチパネルの上に透明の物理ボタンが配置されており、ケータイ時代のように指先の記憶だけでメールが打てるのが特徴です。個人的にも物理ボタンはもう少し見直されるべきだと常々思っているので共感できます。

ガッキ ト ケータイ

ヤマハデザイン研究所とのコラボレーションによるコンセプトです。ピアノ、ギター、ドラムといった現在ではアプリひとつで完結してしまう機能をあえて物理的な機能として携帯電話と融合させる取り組みも、また iPhone に対するアンチテーゼだったようです。

第四章「”シェア”と形態〜スマホSNS の渦中へ〜」

宝の山みたいなコンセプトモデルが大量に存在していますが、それがなぜコンセプトモデルに留まっているのかを知ると難しい気持ちになります。

SUPER INFOBAR concept

au 最初の Android スマートフォンとして企画されたものの、当時の Android OS が異常に横長なディスプレイをサポートしておらずお蔵入りとなったそうです。現在であれば GALAXY S8 のような変態解像度のディスプレイもサポートされているので、本当にデザインだけが先行していたことがわかります。

INFOAR family concept:INFOBAR SUPER / INFOAR family concept:INFOBAR 3 / INFOAR family concept:INFOBAR PAD

INFOBAR ブランドでスマートフォンとテンキースマートフォンタブレットとアクセサリーを作るという一大プロジェクトが進められていたようですが、上下のパネルで金属フレームをサンドイッチするデザインが iPhone 4 と競合してしまったためボツになったとのこと。しっかり時代の潮流には乗っていたのに、少しタイミングが違っただけで運命は大きく違ってしまうのが残酷です。

talby 2 concept

東日本大震災の最中に企画されたが、東日本大震災をきっかけに大きく時代が変容してしまったためお蔵入りとなった」という説明ですが、いまいち納得できません。まあ何でも自粛するのが是とされる謎の空気があったのはたしかなので、そういう空気に殺されたということのなのでしょう。デザインからは、もしもこれが発売されていたら日本のスマートフォンの歴史は大きく違っていたのではないかと思わせるほどの魅力を感じます。今回展示されていたコンセプトデザインのなかで一番ビビッときました。かっこいい&かわいい。

IS01

公式にメガネケースとか言われれてワロタ。

第五章「”ほどよさ”と形態〜繋がりすぎないデザイン〜」

SHINKTAI concept

スマホ疲れからの解放がテーマになっているようで、ソーシャル機能は一切搭載せず、連絡も本当に大切なひととしかできず、写真も 27 枚しか撮れないという、絶対に売れなさそうな最新のコンセプトデザインです。「シンケータイ」と読むそうですが、新しい携帯電話という意味と、シンクライアントという意味が込められているのかなと思いました(僕の勝手な想像です)。ちょっとこういう方向は求めてない感じですね。

おわりに

未来を見据えて携帯電話を開発するとの難しさを感じる展示会でした。

技術や素材が足りずに製品化を断念する場合もあれば、技術も素材もあるのに外的要因で製品化を断念する場合もあって、オシャレなだけがデザインではないんですね。時代に受け入れられたデザインこそが優れたデザインであると考えるなら、世界の潮流とか、自然災害とか、政治とか、そういう一見デザインとは関係なさそうなものに左右されるのも納得できます。

スマートフォンも成熟してソフトウェアやハードウェアのスペックによる差別化が難しくなり、政治的にも端末代金と通信料の分離が期待される今でこそ au Design project は真価を発揮すると思います。SHINKTAI はかなり微妙ですが talby 2 はハチャメチャ魅力的なので、この方向でやってくれたら嬉しいですね。