劇場アニメ『たまこラブストーリー』を観てきた もち蔵は東京へ行くべきではない

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久しぶりに映画館で観る価値のあるアニメ映画を観たという感じです。深夜アニメから映画化されるアニメがすべてこうであればいいのに。

携帯電話とインターネットに頼らない現代のラブストーリー

世に存在するほとんどすべてのフィクションはラブストーリーなのですが、通信インフラが発達しまくった現代をそのまま舞台にすると、だいたいの情事は携帯電話とインターネットで解決するクソみたいな話にしかならないのは周知の事実です。なので多くの作品は舞台を昭和にしてみたり、インフラを破壊してみたり、登場人物を異世界に飛ばしてみたりしています。

たまこラブストーリーの世界にも当然、携帯電話とインターネットはありますが、これらが物語に介在しないように、それでいて不自然にならないようにする誘導がとても上手いと感じました。このへんのバランス感覚は完全に少女漫画です。そしてその際たる装置が糸電話なんですけど、これがなかったらラストの「もち蔵大好き、どうぞ」にはならないわけで、もうアナログ最高ですね。携帯電話捨てよう。

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今回の京アニリンゴ

けいおん!しかり、中二病でも恋がしたい!しかり、京都アニメーションには作中に必ずリンゴを描写しなければならない決まりでもあるんですかね。

本作のリンゴはストレートにニュートンでした。冒頭の「By always thinking unto them.」もニュートンの名言で、「そのことばかり考えていた」みたいな意味らしいです。作中でかんなが S 極と N 極の話をするなど、随所に「恋は引力である」という比喩表現が出てきます。

本編中のリンゴはもち蔵の気持ちを表わしていて、もち蔵の撮っているフィルムに出てくるリンゴもそれとシンクロしているのですが、何度も地面を転がっていたリンゴは最終的にキャッチされるのです。パンダに。糸電話と同じように。そうすると、エンディングで登場するリンゴはもうもち蔵のものではなくたまこの気持ちなのかなとか。どんどん大きくなっていくリンゴには禁断の果実みたいな意味もあって、今後はたまこのリンゴが大きくなっていくのかなとか。妄想は膨らむのです。

あと、もち蔵の撮っているフィルム(隠し撮りではない方)が露骨にもち蔵とたまこなんですけど、映研の部員は優しいですね。

もち蔵は東京へ行くべきではない

映像の勉強をするために上京して数年、そのまま小さな映像制作会社に就職したもち蔵。クリエイターとして名声を得るでもなく、テレビ局の下請け仕事に忙殺され、たまの休日もスタバで MacBook を広げて仕事をしています。高いだけのコーヒーを飲みながら星とピエロで飲んだ苦いコーヒーを思い出します。たまこのことはまだ好きですが忙しさを理由にもう何年も連絡を取っていません。もうこんな生活は嫌だ、たまこに会いたい、うさぎ山商店街に帰ろう。そして数年ぶりに帰省したもち蔵が目にしたのは、知らない誰かと幸せな家庭を築きお腹の大きくなったたまこだった…。

…みたいな展開が桜の花びらの落ちるスピードで容易に想像できるのでもち蔵は東京へ行くべきではありません。マカーでコーヒーに思い入れがあってクリエイター志望で東京に行きたいとか 100% こじらせるパターンです。ニコニコ動画に撮ってみたをアップロードするくらいがちょうどいいです。

もっとも、あの感じだと最終的に上京はしなかったのではないかという気はしますが。

エピローグがまったくなくスパッと終わるので、いろいろ妄想して楽しむ余地がたくさんあるのも本作の良いところです。

たまこまーけっとを観よう

巷では「たまこまーけっとを知らなくても見られる!」「いやむしろ知らない方がいい!」みたいな言説も目にしますが、やはりテレビシリーズを知っていた方がいいと思います。

特にみどりの微妙な表情の変化や、同じくみどりの「見直した」というセリフの重みなんかはテレビシリーズを知っているのとそうでないのとでは捉え方が大きく異なると思います。結構苦痛ですが、たまこまーけっとからのたまこラブストーリーがおすすめです。

パンフレットには山田監督と洲崎さんの対談や簡単な設定などそこそこ情報量がありますが、最後の 1 ページに 1,000 円分の価値があると僕は思います。映画ならではの演出ですね。間違っても上映前に開かないように。